大阪発、青春18きっぷで“名古屋を食べに”出かける旅.3

 名古屋駅周辺の金券ショップは……あと1軒か。ここで手に入らなければ潔く諦めようじゃないか。しかし、わずかな希望にすがるように、最後の一軒に問い合わせてみる。

「5回分、未使用なら1枚ありますよ」

 天は僕を見放さなかった。

 よしっ! 今夜泊まっていかないか、という誘いにOKをもらったときばりのガッツポーズを素早く——そしてコンパクトに——心の中で決める。
 が、「もしかして、旅にきっぷを忘れた間抜けな客なのでは」と見透かされないように、喜びは胸の奥底にしまい、あくまでポーカーフェイスを装った。5回分、全ては使いきれないが、なに、余りは帰宅してから売ればいいのだ。

 こうして無事、青春18きっぷを入手でき、これで旅を続けることができる。しかし安堵したらまた腹が減ってきた。宿の予約までたっぷり時間はあるし、もう1軒、名古屋めしとしゃれ込もうじゃないか。

 止まない雨はないのだと、雨がしたたる名古屋の街を、再び颯爽と歩き出した。

幻の手羽先

 手羽先の唐揚げ。
 みそかつと並ぶ名古屋を代表するグルメである。そして手羽先の唐揚げといえば「世界の山ちゃん」をはずす訳にはいかない。そうして暖簾をくぐったのが「世界の山ちゃん 名古屋駅東店」である。

 手羽先の唐揚げはどこの居酒屋にもあるだろう定番メニューだ。ならどこで食べても同じかというと、そんなことはありえない。世界の山ちゃんの一押し、「幻の手羽先」は、ひと味もふた味も違うのだ。

世界の山ちゃん 幻の唐揚げ

 幻の手羽先1人前5本入り、480円なり。二人前を注文する。ほどなくしてドリンクと手羽先が運ばれてきた。
 よく見ると、やはり普通の手羽先の唐揚げとは違うようだ。タレがよく絡んだ衣をまとい、その上からたっぷりとコショウがかけられている。その姿が、どこか“幻”を連想させる黄金色の唐揚げに見える。
 箸を取ると、箸袋に食べ方が記されている。ふむふむ、関節をポキッと切り離して食べるのか。

 ポキッ、ポキッ。
 口に運ぶ。
 あちちっ、火傷に注意——。
 うん?
 うん、辛うまい!

 全体にまぶされたコショウの見事な仕事ぶりよ。ほんのりと甘いタレにスパイスが絶妙に絡み、口の中でシンフォニーが奏でられているようだ。

 10本か……あっという間に食べ終わる。
 追加しようかな、ビール、頼んじゃおうかな。
 いやこの先、まだ恵那まで移動しなければならないのだ。ここで飲み始めると、宿に着くまで人間の原形を保っていられる自信がない。

 「ごちそうさまでした」

 後ろ髪を引かれる思いで店を後にし、名古屋駅へと向かったのだった。

 名古屋駅13時24分発・中央本線快速、中津川行き乗車。恵那駅14時24分着。

恵那峡
美しい恵那峡を散歩する。

 送迎バスでホテルに向かい、もろもろの感染症対策を経てチェックインを済ませる。
 今日の宿は「恵那峡国際ホテル」、外観は少しくたびれているが、中に入るとなかなか立派なホテルではないか。温泉で汗を流し、景勝地「恵那峡」をひとまわり散歩して、夕食の時間を迎えた。和洋折衷の料理が並ぶ、食べ放題のバイキングだ。

 昼間もたらふく食べたのに、まだ食べるのか。
 もちろん食べる、まだまだ食べる。

 そうしてすっかり日も沈み、恵那峡に夜のとばりが下りるころ、4度目のおかわりを食べ終えた僕は、苦しくてくるしくてたまらない。布団にくるまり、うんうんとうなされるのであった。

 もういい歳なのだから、いい加減、食事の量をわきまえられる大人になりたいと切に願った。
 が、まだまだその願いは、しばらく叶いそうにない。

 うなされながらも、みそかつと手羽先、また食べに行きたいなと夢想する、性懲りもない僕である。<了>