鉛筆の筆記具としての優秀さを再認識したのは、ナビゲーションスキル検定試験のときだった。地形図を片手に山中を歩き、歩いたルートやチェックポイントを地形図や答案用紙に書き込んでいく。しかし、困ったことが発生した。
7月初旬の山中は梅雨の真っただ中で、試験当日も朝から雨が降っていた。地形図や答案用紙はビニールケースで防水対策をしても、書き込むときにぬれてしまう。そして、雨にぬれた用紙には、持参したボールペンでは書けなかった。
雨の中でも使える大人の鉛筆

「先生、用紙に書けません……」
私は教官を務める村越真先生に、たまらず助けを求めた。村越先生は日本のオリエンテーリング第一人者であり、全日本オリエンテーリング大会を通算22勝されたナビゲーションマイスターである。先生は私の声に快く応えてくれた。
「鉛筆なら書けますよ」
そう言いながら手渡してくれたのが、『大人の鉛筆』であった。文具好きの私はその存在を知っていたものの、手にしたのは初めてだ。シャープペンシルのようにノックして芯を出す。ぬれた答案用紙に記入してみた。
「書ける!」
ひととおりの記入を済ませ、先生にお礼を伝えて鉛筆をお返しした。もし鉛筆をお借りできなければ落第していたことだろう。それ以来、野外の筆記具は鉛筆と、私は決めている。
鉛筆を見直してみよう
社会人になって鉛筆を使う機会がなくなってしまった。もしかしたら、小学校を卒業してから1度も鉛筆を手にしていない人も、いるかもしれない。しかし、鉛筆の機能はあなどれないのだ。
まず芯さえあれば書ける。インクがあるのに詰まってしまう、安物のボールペンとは違う。インク切れもおきない。鉛筆が長ければしばらく使えるし、短ければじきに寿命が訪れる。シンプルな構造は故障を知らない。水中に落としても、水にぬれた紙にも書ける。
鉛筆の優れた点を挙げていくと、それこそ枚挙にいとまがない。ただ、社会人が日常で使う筆記具としては、もう少し利便性が欲しいところだ。
削ったり、芯が折れないようにキャップをはめたりの作業は——もちろん楽しみでもあるのだが——面倒である。鉛筆の機能や書き心地はそのままに、大人が使いたくなる鉛筆を……。そんな願いを北星鉛筆がかなえてくれた。
鉛筆の選び方|H・F・Bの濃さの違いとは
社会人になってから鉛筆に触れていない、という人は多いことだろう。だがそんな人こそ鉛筆を使ってみてほしい。 これほどシンプルで、どんな状況でも書ける心強い筆記具は他にはないのではないか。ここでは、鉛筆の選び方とその魅力に迫りたい。 鉛筆には種類がある。まず一般的な黒芯鉛筆と色鉛筆に分けられ、黒芯鉛筆にも製図用、事務用、絵画用など、用途に応じたいくつものバリエーションが用意されている。 …
大人の鉛筆は、鉛筆の書き心地とシャープペンシルの利便性をあわせ持つ

大人の鉛筆は、老舗の鉛筆メーカー『北星鉛筆株式会社』が、創業60周年記念に発売したものだ。2011年の発売以来、すでに累計100万本を突破しているという。シャープペンシルと同じ構造でありながら、使い心地はまさに鉛筆である。
大人の鉛筆の軸には『アメリカ産インセンス・シダー材』を使用しており、鉛筆と同じ木のぬくもりを感じられる。それでいて、軸の太さは鉛筆より1mm太く大人の手にもよくなじむ。金属パーツがある分、鉛筆より重たいが、重量バランスがよく長文を書いても疲れない。

使用する芯は鉛筆に近い太さ(2mm)で、シャープペンシルのように力を入れ過ぎて折れる心配もない。芯の先が丸くなれば、専用の芯削りで削る。その書き心地はなめらかで手に優しい。まさに鉛筆そのものでありながら、シャープペンシルの利便性を有しているのだ。
大人の鉛筆の気なるところ

欠点というほどの欠点はないが、2点気になるところがある。ひとつは木軸と金属パーツの境目に角が立っており、ひっかかることだ。これは指を添える位置をずらして、ひっかからないように対処している。
もうひとつは専用の替え芯が必要なこと。鉛筆のように近所のコンビニでは手に入らないから、替え芯は十分に用意しておきたい。
大人の鉛筆、まずは手にしてみてほしい
気になる点はあるものの、大人の鉛筆には満足して愛用している。野外と旅行先での筆記具は大人の鉛筆で決まりだ。もしかしたら、万年筆よりも出番が多くなるかもしれない。北星鉛筆には、これからも大人の鉛筆を作り続けてほしいと願ってやまない。