最後に年賀状を書いたのは確か中学生のときだった。
高校に進学し、携帯電話を手にしてからは「年賀状なんて必要ない、これからは携帯メールで十分だ」と、年末年始の慣習に見切りをつけた。
今ではスマートフォンを持たない高校生を探すのは至難の技だろう。当時はクラスの半数ぐらいの人が携帯電話を所有していたかな。
それは、現在では当たり前であるスマートフォンのカメラ機能の、その先駆けとなった「シャープ:J-SH04」がJ-フォン(現ソフトバンク)から発売され、「写メール」が反響を呼んだ時代のことだ。
その名残でいまだにスマートフォンでの撮影画像を”写メ”と呼んでしまう。僕はそんな世代のひとりである。
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コロナ禍で変化する年賀状市場
2020年、それまでは当たり前だった生活を改めざるを得なくなった。近くにいるのに会えない——。経済活動か感染拡大防止か。日本中がジレンマに陥った。
ならばせめて年賀状で新年の挨拶と近況報告を。そう思い立ったのが12月10日のことだった。
年賀状は、古くは平安のころより明治の初めまで、1月1日から15日までに主君、師匠、父母、親戚、知人、近隣の人々に年始の挨拶をする習わしであった。本来は1月2日の書初めの日に書き、松の内までに出すものであった。それが近年、郵便が簡便に送られるようになり、現在の年賀状の形となった。(参考:日本大百科全書・年賀状)
しかし、ご存知のように年賀状の発行枚数は年々減少しており、2021年用の年賀はがきの発行枚数は前年比17.4%減、19億4198万枚と、記録に残る2004年以降でもっとも少ないという。(参考:朝日新聞・年賀はがき、販売始まる 枚数は10年連続減で過去最少)
インターネットとデジタル機器の発展により、冒頭の”僕”のような人が増えたことも要因であることは想像に難くない。
しかしながら、発行枚数こそ過去最低ではあるものの、2020年の年賀状を取り巻く状況に変化の兆しが見られている。
報道各社によると「コロナ禍で会えない人に年賀状を出したい」という需要が増加傾向にあるようだ。むろん、実際の数字は年が明けてみないと分からないが、せめて新年の挨拶を年賀状で、と考えるのは僕だけではないらしい。
年賀状と過ごす年末年始
小学校が冬休みに入ると、当時の僕は「年賀状用の版画キット」なるものを購入し、図柄を書き、せっせと彫刻刀を刻んだ。図画の得意な母に手伝ってもらいながら、カラーで仕上げたオリジナル年賀状は——いささかの誇張はあるが——それはもう美しい出来だった、と僕は記憶している。
ある年の年賀状では自分の宛名を書き忘れて、「差出人不明の年賀状が届いたぞ」と、友人達にからかわれたこともあったなぁ。(それでも筆跡から僕であることを分かってくれ、ちゃんと返事が届いたのだ)
それから20年以上が経過し、大人になった僕は版画こそ彫らないものの、わずかな枚数の年賀状を用意した。僕の書く字は目も当てられたものじゃないけれど、「お元気ですか? 僕は変わりありません。今年もどうぞよろしく——」という思いは伝わるだろうか。
この年末年始は年賀状を送った人のことを思いながら、静かに過ごすを楽しみとしたい。