今まで登山に使う地図といえば、昭文社刊行の『山と高原地図』か国土地理院の『1:25000 地形図』であったが、新たな選択肢が加わった。吉備人(きびと)出版の登山詳細図である。
登山詳細図は縮尺が 1:12500 と大きく、その名の通り詳細な地形を読めることが特長だ。分岐のが多く、市街地もコースに含まれる近郊の里山では、大きな縮尺が実に使いやすい。数年前に書店で見かけた時から気になっており、今回『六甲山系登山詳細図 西編・東編』を購入した。
ここでは、登山詳細図の使い勝手を、日本オリエンテーリング協会ナヴィゲーションスキル検定保有者が詳細にレポートしたい。
目次
登山詳細図とは

登山詳細図とは、岡山県の吉備人(きびと)出版から刊行される登山地図のことである。一般的に、登山地図といえば縮尺1:50000 の山と高原地図や国土地理院発行の1:25000 地形図だろう。
対して登山詳細図の縮尺は1:12500 と大きく、その名の通り詳細に地形を確認できる。GPS(全地球測位システム)とロードメジャー(回転式距離計)を使い、実際に踏査して作図されている。
現在は、主に丹沢や奥多摩など首都圏の山々を中心に刊行されており、関西では六甲山系登山詳細図の西編と東編が用意されている。
登山詳細図の5つの特徴
1:12500 の大きな縮尺

登山詳細図は、大きな縮尺でより詳細に地形を読めるのが最大の特長である。
例えば、山と高原地図の「六甲・摩耶」の縮尺は1:25000 だ。しかし、六甲山は分岐が多く登山道以外の道も縦横無尽に刻まれ、山と高原地図には記されていない登山道もある。主に、コースタイムや水場など登山情報の提供を目的としているからだ。

実際のフィールドで地図にない道が現れ、道標もない場合「どちらが正しいルートだろう?」と悩む。こういった場面では山と高原地図は使いにくい。

そこで 1:25000の地形図を併用するのだが、地形図は慣れてないと使いこなすのが難しい。何より距離感がつかみにくい。
けっこう歩いたつもりが、現在地を把握できておらず、地図上ではほとんど進んでいなかった、なんてこともしばしば起こる。
一般登山道ではない小径も表記されている

登山詳細図は、山と高原地図にはない登山道や分岐も詳細に記されており、フィールドで分岐に差し掛かった時、ルート選択を迷わずにすむ。しかも、都市地図に近い縮尺は距離感が非常につかみやすい。
今の時代、多くの人が、出先で道がわからない時にスマートフォンの地図アプリを利用するだろう。画面に地図が表示され、歩くと現在地の青い目印が移動していく。登山詳細図の距離感はそれに近い感覚で使える。
1:25000の地形図では見失いがちな現在地を、登山詳細図だとスマホの画面で青い目印が移動するがごとく、指で現在地をたどれるのだ。
言葉で説明するのは難しいが、実際に使って体験してみてほしい。とにかく現在地の確認が容易である。これなら六甲山系ならではの入り組んだ住宅街もわかりやすい。登山地図や地形図を使い慣れない初心者にこそ、ぜひ使ってほしいと思う。
等高線間隔は10m

1:25000 地形図と同じ等高線間隔で、主曲線が10mおきに記されている。地形図と同じ感覚で、傾斜や地形を読み取れるのだ。
山と高原地図にも等高線は記されているが、登山情報が邪魔をして地形を読み辛いのが正直なところである。フィールドで地形を読みながら進むには、地形図か登山詳細図がいい。
特に登山詳細図は縮尺が大きく、尾根、谷、鞍部(コル)などがわかりやすい。地形が読めるとコースの先読みが容易だ。
この先登るのか下るのか。標高差はどの程度か。前もって情報がわかれば精神的負担を大きく減らせる。
道標から道標までの距離表示

山と高原地図にはコースタイムが記されているが、登山詳細図では、加えて道標の位置と、道標間の距離が表示されている。これが現場で非常に役に立つ。
コースタイムは、個人の能力やスタイル(ハイク・トレラン)などに左右されるが、距離は普遍的なものである。
次の道標まで何メートルか。その間の高低差は何メートルあるか。こういった情報が瞬時に読み取れるのだ。
もちろん、距離表示がなくてもベースプレートコンパスで距離を測れるが、あらかじめ表示されていた方が使い勝手がいいに決まっている。
余談だが、吉備人出版による六甲山全山縦走路の距離測定結果は48kmだそうだ。公称は56kmだが、やはり、もう少し短いようである。
コースの紹介とグレード表示

登山詳細図には、おすすめのハイキングコースが表示されており、例えば六甲山系登山詳細図(西編)では、88ものコースがある。それぞれのコースはグレード分けされている。
- 道標がある一般登山道
- 道標はあるが荒れた登山道
- 道標がない登山道・小径
- 加えて難易度の高い小径
上記4つに分けられており、コースごとに距離とコースタイムが記入されている。自分の技量や体力に合わせてコースを選べるし、歩き慣れた人でも「こんなコースがあったのか!」と新たな発見があることだろう。
水に強い合成紙を使用
登山詳細図には「地図用特殊紙使用」を採用し、水分に強いし破れにくいのが特長だ。
WEBからプリントアウトした地形図では、マップケースやジップ付きナイロンケースが必須だが、登山詳細図は裸でポケットに入れていても大丈夫だろう。
ただし、悪天候時や沢登りでは防水対策が必須であることは言うまでもない。
登山詳細図のデメリット
コース案内や詳細な地形など、至れり尽くせりの登山詳細図だが、やはりデメリットもあるので確認しておきたい。
計画立案には山と高原地図がおすすめ

山と高原地図には水場、トイレ、商店や銭湯など登山者が必要とする情報が豊富に、しかもわかりやすく表記されている。
登山詳細図にもトイレなどは表記されているが、少々わかりにくいのだ。
やはり、計画立案には山と高原地図が適している。計画段階で使う地図と、フィールドでのナビゲーションに使う地図は使い分けが必要だろう。
縮尺が大きく情報量が多い
これはメリットでもあるのだが、山域全体を俯瞰(ふかん)するには地図がやや大きい。六甲山の場合は、六甲山域を網羅するにの2枚に分かれてしまい、例えば全山縦走する時は西編と東編の2冊が必要になる。
山域を俯瞰しながらフィールドでのナビゲーションにも使うなら、 A4かA3用紙にプリントした地形図が使いやすいだろう。
まとめ:計画立案には山と高原地図、現場では地形図や登山詳細図を活用しよう
今まで、登山地図といえば山と高原地図の一択だと思っていたが、登山詳細図も併用していきたい。計画立案には山と高原地図が最適だが、現場で使うには登山詳細図が使いやすい。
大きな縮尺は現在地を確認しやすく、距離表示や最低限の登山情報を記しており、ナビゲーションに大いに役立つ。さらに、スマホには登山アプリをインストールし、登山詳細図とコンパスを携帯すれば、道迷い遭難は高い確率で防げるのではないか。
もっとも、スマホアプリをインストールしていても使えないと意味がない。現在地が表示されても、その先は読図が必要だ。この先ステップアップするために、読図・ナビゲーション能力を磨いていきたいと思う。