阪急電車の車窓から、愛宕山(あたごやま)の山容を遠くに捉えた。のっぺりとゆるやかな山々が連なり、山頂だけがひょっこりと頭を突き出している。
標高924m。頂上には全国の愛宕神社の総社が鎮座し、市民の山として親しまれている。毎年7月31日夜に行われる千日参りには多くの京都市民が参拝し、冬のスノーハイキングも人気だ。
ここでは、清滝バス停から表参道を登り愛宕神社を目指す『愛宕山表参道コース』をご紹介したい。
※2020年2月 冬の愛宕山を追記
目次
愛宕山登山コースの概要
- 歩行距離:約9.5km
- 歩行時間:約4時間
- 難易度:初級向け
愛宕山の標高は924m、京都市右京区に位置する。頂上には全国の愛宕山の総社、愛宕神社が鎮座し、火伏せ・防火の神として知られている。毎年7月31日の「千日詣(もう)で」では、この日のお参りで千日分のご利益があるといわれ多くの人が訪れる。※参考:日本大百科全書 愛宕山
水場は登山口から5合目休憩所までの途中に『お助け水』があり、トイレは登山口と愛宕神社の境内に備えられている。
愛宕山表参道コースハイキングレポート

午前8時40分、バス停周辺には降雨の跡が見られ、山頂付近には黒い雲がかかっていた。天気予報は晴れだが、山の天気が移ろいやすいのは周知のこと。「もし雨が降り出したら撤退しようと」友人と決めて、表参道へと続く橋を渡った。

橋の先には鳥居があり、くぐると表参道の登山道だ。歩き始めてすぐ、登山道脇の看板に目が止まった。

「愛宕神社には自分の足で登り、自分の足で下るほか、方法はありません」
少し文言が違うかもしれないが、概ね上記のようなことが書かれていた。これは愛宕山に限られたことではなく、すべての山に当てはまり、山に入るすべての人が肝に銘じるべきことだろう。低山だからと油断せず、あらためて身を引き締めた。
舗装路の先の石段を登り、お助け水を見送ると急坂が待ち構えている。

参道らしく急な石の階段が長く続き、11月末だというのに汗が吹き出した。たまらずアウタージャケットを脱ぎ、Tシャツ姿で登っていった。

秋冬のレイヤリングは難しい。登りでは体温が上昇するし、休憩中は一気に冷える。汗冷えを防ぐために、汗をかかないようゆっくりと歩くが、それでも汗がとまらない。小休憩をこまめにとり、体温調整をしながらマイペースで登っていった。
急登を登りきるころには心配していた天気も回復し、友人と2人で胸をなでおろした。登山道の傾斜が少しゆるみ、その先が5合目休憩所である。

東屋に腰を下ろしながら、地形図でこの先のルートを確認した。
「急登はここまで。この先は斜面をトラバースぎみに進む、ゆるやかな登りだな」
そう友人に伝えると、隣に座っていた登山者がうれしそうに声をかけてきた。
「この先はゆるやかになるんですね!」
40代ぐらいの、少し小太りな男性の額には汗がびっしょりと浮かび上がっている。ここまでの登りが、よほどこたえたのだろう。
「はい、この先は水尾分かれの分岐まで、登りはほとんどありません。でも、愛宕神社の手前で、もうひと登りありますよ!」
そう伝えると、ひとまず急登がないことに安心したとみえ、「ありがとうございます」と言いながら、男性が安堵の表情を見せた。
私が愛宕山に登るのは今回が初めてだが、地形図が読めるとこのぐらいの先読みは朝飯前である。所持しているナビゲーション検定も、誰かの役に立つことがあると思うと、うれしくなった。

5合目からは尾根を外れ、西に続く斜面を歩く。南の谷側には嵐山の街並みと京都の山々を望め、見晴らしがよい。紅葉がちょうど見頃を迎え、京都の秋らしい風情のある眺望が広がっていた。

そんな中、時おり吹く冷たい風が肌をつんざき、冬の到来を予感させる。水尾分かれの東屋に備えられた温度計は0度を指していた。

水尾分かれから愛宕神社まではもうひと息だ。登山道も少し雰囲気が変わり、両脇にそびえる杉が、この先が神域であることを知らせてくれるようだった。眼下に水尾の集落を望みながら、杉の間を登っていく。神社の入り口である黒門をくぐり、長い階段を登ると愛宕神社の本殿である。

境内にはうっすらと雪がつもり、幻想的な景色が広がっている。本格的に雪が積もれば、より美しい情景を楽しめることだろう。本殿にお参りを済ませ、すっかり心が洗われた。

仕事があって、友人や家族がいる。それに、ここまで登ってこれる健康な心身。それ以上に必要なものなんてあるだろうか——。
「自分を戒めるためにも、愛宕山には定期的に訪れよう」
そう心に決めた。


境内にはいくつかの休憩所が設けられ、ストーブ付きの待合室では、御朱印を待つ多くの参拝客らが、ほがらかに暖をとっていた。我々は外のベンチに陣取り、ジェットボイル (コンロ)を組み立てて、豚肉と白菜の鍋をいただいた。生鮮食品を山で楽しめるのは、秋冬登山ならではなのだ。


下山は本殿下の分岐を東に進み、月輪寺(つきのわでら)へと続く尾根道を下る。整備された表参道とは違い、こちらは山道らしい荒々しさのある道だ。

月輪寺の境内を通り抜け、ややガレた急坂をつづら折れに下っていく。尾根道が次第に谷へとかわり、川まで下れば月輪寺の登山口である。杉の人工林に囲まれた林道を川沿いに進むと、清滝バス停に到着だ。

さて、今回は友人との2人旅である。このまままっすぐ帰宅するはずもなく、大阪で汗を流してから杯をかわした。近況や懐かしい昔話に花を咲かせつつ、愛宕山での1日を振り返った。
冬季や気温差に注意! 愛宕山登山の服装や持ち物
春から秋にかけての登山に特別な道具は必要ない。ただし冬季は別だ。
ガイドブックによると、愛宕山は1月から2月にかけて雪山となる。歩行には軽アイゼンやスパッツが必要となるのだ。また、登山口と山頂の標高差が800m以上あり、気温差が10度以上ひらくことも。そこで、冬季には以下の装備を用意したい。
- 登山靴
- 防寒着(都市部と山頂の気温差が10度近くになることも)
- レインウエア or 雪山用ジャケット
- 軽アイゼン(積雪期は必須)
- スパッツ
- トレッキングポール(あれば便利)
- 最低限の救急キット
- 地図とコンパス、もしくはスマホの登山地図アプリ
- 飲み物
- お弁当や行動食
私が訪れた11月末で、水尾分かれの分岐で気温0度であった。防寒対策は念入りに準備したい。登山道は道標が整備され危険箇所はないが、京都府警によると年間約20件の救助案件が発生しているという。ガイドブックだけではなく、地図も用意しておこう。
愛宕山へのアクセス
- 往復:阪急嵐山駅前バス停 京都バス→約20分 230円→清滝バス停:グーグルマップ
※この記事の情報は2019年12月時点のものです。