山で使う地図といえば、登山地図と地形図のふたつだ。昭文社の「山と高原地図」に代表される登山地図は、登山者に必要な情報を網羅している。
その一方、山と高原地図は縮尺が小さく、実際のフィールドで地形を読むには適さない。そこで、国土地理院が発行する2万5千分の1地形図が必要になるのだ。
ただし、地形図は山と高原地図のように購入してすぐに使えるわけではない。磁北線を書き入れ、使いやすいように折りたたむ必要がある。
ここでは、三角関数を使った磁北線の引き方と、携帯に便利な折り方、地形図を使うメリットや魅力などをご紹介しよう。
目次
地形図に磁北線を引こう

地形図をコンパスとセットで使うには、磁北線が欠かせない。地形図の上が示す真北に対し、コンパスが指すのは真北ではなく磁北だから、正確な読図のためには磁北線を引く必要があるのだ。
磁北線の引き方で、もっとも簡単なのは分度器で角度を測って書き入れる方法である。だがここでは、より正確な磁北線を引ける三角関数を使った方法をご紹介しよう。
三角関数 tan(タンジェント)を使った磁北線の引き方

- 磁気偏角を確認する
- 三角関数Tanを使った計算
- 定規で磁北線を引く
磁気偏角(偏角)を確認しよう
まずは、地域によって異なる磁気偏角を確認しよう。日本では磁北線は西に5度〜11度前後の角度に傾く(これを西編という)。
地図にはかならず磁気偏角が記載されているので確認してほしい。神戸首部の場合は7度10分であった。
tanを使って計算しよう
tanとは三角関数のひとつのこと。直角三角形で、ひとつの鋭角について底辺に対する対辺の比のことである。数学で以下の公式を学んだ覚えはないだろうか。

上の公式を、地形図に磁北線を引く場合に応用すると以下の通りになる。

tan(偏角7度10分)=AB/CB(4cm)
CBを4cmとしたのは、1/25000図において地図上の4cmは実際の1kmとなり、4cm間隔で磁北線を引いておくと距離の目安になるからだ。
そして、tanの値は7度10分=0.126である。
tanの値はグーグルで「タンジェント 7度10分」と検索をかけると答えを返してくれるので、この方法で求めた。これを公式に当てはめて計算すると……。
0.126=4/AB
4/AB=0.126
AB=4/0.126
AB=31.7
つまり、地形図の底辺に4cmの印をつけ、左辺には31.7cmの印をつける。それぞれの印を線で結ぶと、西編7度10分の磁北線が正確に引けるのだ。
磁北線を並行に記入していく

あとは、初めに引いた磁北線と並行に4cm間隔で線を引けば完成である。
地形図を使いやすいように折りたたむ

地形図はそのままでは大きく携帯しにくいので、使いやすいように折りたたむ。私は以下の方法で折りたたむが、地形図を折る方法は多数あり、正解はない。いろいろな折り方を試してみよう。
- 3つの角を折る
- 地図の余白を折る
- 地図面の真ん中が山になるよう、ジャバラに折る
- さらに横に2つ折りにする

まずは3つの角を折りたたもう。

続いて地図の余白を折る。

地図面の真ん中が山になるようにジャバラにおり、さらに2つに折れば、携帯にも便利で使う時にはすぐに広げられるサイズになる。

地図の名前が表にくるので、どこの地図かも一目瞭然だ。
さて、地形図を用意したところで具体的な使い方が分からなければ役に立たない。地形図の詳しい読み方や使い方は、こちらの記事を参考に。
地形図を使うメリットや魅力

最近はもっぱらMac用の無料地形図ソフト「TrailNote」を使っている。これは国土地理院が公開している電子地形図を表示し、縮尺やカラーなどをカスタマイズして印刷できるソフトだ。
作図したデーターをコンビニに持ち込めば、高精彩な地図が数十円で印刷できる。印刷した地図を山に持ち込めば十分実用にたえる。そんなことから、紙の地形図を最後に購入したのは2016年に氷ノ山に出かけた時のことだ。
つい最近、地図に関する参考書を探しに書店に出かけた際に、久しぶりに地形図コーナーをのぞいてみた。私のホームコースである兵庫県の摩耶山が収録されている「神戸首部」の1/25000の地形図を、なにげなく手にとってみた。
「うわっ、きれいだ!」
心の中でそうつぶやいた私は、地図を手にしてレジに並んだ。
国土地理院では、2013年の11月1日から「多色刷」の地形図を刊行している。それまでの3色刷に比べて情報量が増え、多彩な色で表現されているため、美しく読みやすい。山岳地帯は尾根と谷に陰影がつけられ、地図を読み慣れない人でも地形を把握しやすくなっている。
神戸首部には、神戸の市街地と六甲山の山岳地帯が収められている。建造物はオレンジ色に着色され、主要道路は緑や黄色で表現される。山岳地帯の等高線は薄い茶色で読みやすく、地形の陰影は薄いカーキ色で現される。
都市部のオレンジ色と山岳部のカーキ色、そして海の水色のコントラストが、地形図の美しさをよりいっそう引き立てている。海、山、街が近い神戸ならではのコントラストだろう。

オリエンテーリングに使う「O-MAP(オーマップ)」の美しさにも感動したが、多色刷の地形図も負けてはいない。2016年に氷ノ山の地図を購入した時も多色刷であったはずだが、この魅力をすっかり忘れてしまっていたようだ。
地形図の魅力は美しいだけではない。パソコンの画面やスマートフォンに表示される地図と違い、地形図は詳細さを保ったまま広範囲をカバーできるのもうれしい。国土地理院の刊行する1/25000の地形図では、約10.5km ×約13kmの範囲を、ズーム操作を必要とせず確認できるのだ。
これは、ハイキングやトレイルランニングでの計画や現場でのナビゲーションに大いに役立つ。予定のルートを考えながら地形を読み、広範囲を確認しながら周囲の山々との位置関係を掴む。表示範囲が広いと目的地に至る複数のルートも確認できるから、エスケープルートも設定しやすい。
このように、スマートフォンの地図にはないさまざまな魅力が地形図にはある。
自宅に帰ってから、購入した地形図を改めて眺めてみた。地形図を使うには磁北線を引き、使いやすいように折る必要がある。しかし、まっさらな地図を加工することが、なんだかもったいなく感じてしまった。
「だから保存用と、観賞用と、実用が必要なのか」
世の中のコレクターと呼ばれる人は、同じものを複数購入し、保存用・観賞用・実用と用途を分けると聞いた。失礼ながら私には理解できないなぁなどと思っていただが、地図を鑑賞用に残したいなどと考える私も、立派な地図オタクである。
よく出かける山域の地形図は購入しておくべし
単発で出かける山域の地図は、WEB地図をプリントアウトすれば十分だろう。しかし、よく出かける山域の地図は、ぜひ国土地理院の紙の地形図を購入してほしい。
WEBから印刷した地図より広範囲を網羅でき、山域の概念や登山ルートを詳細に把握するのに役立つ。もちろん現場でのナヴィゲーション用としても最適だ。そして、なにより美しい、と私は思う。
地形図は大型書店や登山用品店で手に入る。もしくは、日本地図センターのネットショップからも注文が可能だ。この記事を参考に、ぜひ地形図を使ってみてほしい。