登山に読図テクニックは欠かせない……。とは分かっていても、「地図はザックに入れっぱなし」「コンパスは持っているだけで使ったことはない」というのが現実かもしれない。
その原因のひとつは、地図を手にしても「どうすれば地図が読め、使えるようになるのか分からない」ことではないだろうか。
そこでこの記事では、読図を覚えたい人のために、私が保有する『日本オリエンテーリング協会ナヴィゲーションスキル検定』で学んだ、地形図の読み方と使い方、そして学び方をご紹介したい。
この記事を読み、「よし、地図を使ってみよう」と思い立ってくれたら幸いである。
目次
- 読図スキルの検定試験『ナヴィゲーションスキル検定』とは
- 地図の基本を学ぼう
- 地形図の等高線の読み方|尾根と谷に線を引こう
- 地図とコンパスの基本の使い方・整置を覚えよう
- 地図を使ったナビゲーション方法と基本的な考え方
- まとめ
読図スキルの検定試験『ナヴィゲーションスキル検定』とは

ナヴィゲーションスキル検定とは、公益社団法人日本オリエンテーリング協会(以下JOA)が道迷いを防ぐスキルをスタンダード化し、ナヴィゲーション・インストラクター認定制度の元、ナヴィゲーションスキルを確認する検定のことである。検定は山のグレーディングと関連づけられ、以下の3つのレベルが設定されている。
- ゴールドレベル:地図に道が書かれていないルートで、適切な判断ができるレベル。山のグレーディングDレベルに相当する。
- シルバーレベル:道をたどること自体が難しい場所で適切な判断ができるレベル。山のグレーディングCレベルに相当する。
- ブロンズレベル:登山道を、道標がなくても不安なくたどれるレベル。山のグレーディングBレベルに相当する。
講師は村越真氏、田島利佳氏、小泉成行氏の3名で、いずれもオリエンテーリングやナヴィゲーションスポーツの第一人者として世界で活躍されている方々だ。私が合格したのはシルバーレベル。その検定で学んだことをお伝えしていきたい。
地図の基本を学ぼう
地図の基本を学ぶ机上学習は必須!

地図の読み方を覚えるためには、机上学習が欠かせない。
私は検定に参加する以前から読図の本を読み漁り、地図の基本やちょっとした問題集などを問いていた。だが正直な話、机上学習はあまり気が乗らなかった。
しかし、初めて読図をきっちり教わったことで、改めて机上学習の大切さを学んだ。慣れない人には面倒かもしれないが、一度理解してしまえば難しいことはない。ぜひ、実践のまえに地図の基本を学んでほしい。
ちなみに私は、下記の『山岳読図ナヴィゲーション大全』で学習していた。村越先生の著書であり、地図の基本やコンパス操作など、ナビゲーションに関するあらゆることを勉強できるのでおすすめだ。
真北(しんぽく)と磁北
まずは真北と磁北の違いを理解しておこう。
地図が指す北とコンパスが指す北は少し違う。地図の上は北極点のある真北を指すが、コンパスが指すのは磁北であり、真北とはズレがある。このズレを偏角(磁器偏差)という。
日本では偏角は西に傾き(これを偏西という)、北部では8度〜10度、関東では7度前後、南部では5度〜6度のずれがあり、地域によって偏角は異なる。
確実なナビゲーションを行うにあたり、地図に磁北線が引かれていなければ正確な方位が分からない。そのため、あらかじめ地図に磁北線を引いておく必要があるのだ。
磁北線の引き方

偏角は地図に必ず記載されているので確認しよう。紙の地図に磁北線を引くにはいくつかの方法があるが、分度器で測るのが一番簡単だ。他にもいくつか方法がある。
- 分度器を使って引く
- コンパスを使って引く
- 三角関数で値を求めて引く
- 地図ソフトで自動で引く
2万5000分の1の地形図に磁北線を引く場合は、4cm間隔(1cm=地図上の250m、4cm=1km)で引いておくと、距離の目安になるので現場での利便性が高まる。
最近はWEBや地図ソフトから地図を印刷して使うことも多く、その場合は自動で磁北線を引いてくれる機能があるので便利だ。地形図や磁北線については以下の記事も参考に。
地図記号を覚えよう
地図を読むには地図記号を覚えなければならない。さらに言うと、地図記号の名前を覚えるだけではなく、記号を見て実際の風景をイメージできるようになることが大切だ。
地図記号は書籍や国土地理院のWEBサイトで覚え、記号と実際の風景が合致するよう、繰り返し現場で確認したい。
地図の縮尺と実際の距離
縮尺とは、地図上の長さが実際の何分の1になっているかを表す比率のことである。
例えば縮尺が2万5000分の1地形図の場合、実際の2万5000mは地図上の1mであることを表しており、つまり地図上の1cmは250mである。

登山地図の代表である『山と高原地図』の大半は5万分の1であり、地形の詳細を読むには適さない。現場でのナビゲーションには2万5000分の1地形図が最適だ。
そのかわり、登山地図にはコースタイムをはじめ、水場やトイレの場所、危険箇所の警告、山小屋の場所など、登山者に必要な情報が満載されている。登山計画の立案には最適な地図だ。
登山地図については『登山地図の読み方・使い方|地図とコンパスの基本【整置】を覚えよう』を参考に。
地形図の等高線の読み方|尾根と谷に線を引こう

等高線とは、標高(海抜高度)の等しい地点を連ねた線を地図上に表したものである。等高線を読むことで地形を立体的に捉えられるが、これがなかなか難しい。特に、尾根や谷が複雑に入り組んだ里山の地形などは把握しにくいだろう。
まずは山の代表的な地形である尾根、谷、ピーク(頂上)が等高線でどのように表されているか確認しよう。
ピーク

ピークとは山の頂上のこと。地図上では等高線が丸く閉じて表される。
尾根

尾根とは、谷と谷の間の突起部分のことだ。地図では、ピークから等高線が突き出している部分が尾根にあたる。
谷

谷とは、尾根と尾根の間にある凹んだ地形のこと。地図ではピークに向かって等高線が突き上げている部分が谷にあたる。
尾根と谷に線を引く
ピークや尾根、谷が等高線にどのように表れるか理解したところで、次は尾根と谷に線を引いてみよう。等高線の理解には、この作業が最も効果的で大切である。

これをやれば、等高線の理解が一気に深まるのは間違いない。いつも出かけている山域の地図を用意して、面倒がらず、実際に作業してみることをおすすめする。
地図とコンパスの基本の使い方・整置を覚えよう

地図の基本を確認したところで、いよいよコンパスを使った実践的なナビゲーションに入る。そこでまず、コンパスの使い方の基本である『整置』を覚えておこう。
整置とは、自分の向いている方向が前になるように地図を持つことである。
カーナビをイメージしてもらうと分かりやすいだろう。カーナビの地図は常に進行方向が上(前)になるように、方向が変わるたびに地図が回転している。

地図とコンパスを使ったナビゲーションでも、地図は常に進行方向が前になるように回転させて(整置して)使う。
文章で説明すると難しく思われるかもしれないが、整置はとても簡単な作業である。
- 地図の磁北線とコンパスの磁針を平行に合わせる
これで整置ができる。
地図を使ったナビゲーション方法と基本的な考え方
ナビゲーションとは「地図読み能力や地形の判断力、コンパス操作などを総合的に用いて、迷わずに目的地に到達すること」である。
「みなさんは地図が読めないレベルの人ではありません——」。検定2日目の実技講習を前に、村越先生はこのように述べられた。
ナヴィゲーション講習への参加者は、地図読みを覚えたくて参加している人がほとんどだという。私もそのひとりだった。しかし、講習の参加者の多くは、すでに地図の読み方が分かっていることが多い。
足りないものは、地図からナビゲーションに必要な情報を読み取る力だそうだ。そのナビゲーションを構成する4つのステップが以下の通りである。
- プランニング:目的地や、そこまでのルートを決める
- 先読み:チェックポイントやルートの特徴を確認する
- ルート維持:正しいルートに進んでいるかを確認する
- 現在地把握:今どこにいるだろうか
目的地までのプランニング

まずは目的地までのルートの距離や高低差を読もう。この時に、目的地に至る複数のルートを確認しておくと、エスケープルートの確認にもつながりリスクマネジメントになる。山中では想定外のことが起こりうるのだ。
ルートを確認したら、ルート上の現在地確認しやすそうな場所にチェックポイントを定めよう。慣れないうちは複数のチェックポイントを定めたほうが安心だが、上達すればチェックポイントの数を減らし、ナビゲーションをよりシンプルにする。

余談だが、村越先生によると、ナビゲーションの上級者は地図上のすべての情報を確認しているわけではない。必要な情報のみをよりすぐり、ナビゲーションに活用しているそうだ。
常にピンポイントで現在地を把握をしているわけではなく、状況によっては「ポイントからポイントまでの道上にいる」ことが分かっていれば十分だそうだ。
目的地までの先読み
目的地を定めたら、そこまでのルートにどのような特徴があるかを確認して先読みしておこう。
道の方向や尾根、谷の状況はどうか。斜面はどのように変化するかなど。その時に「もしルートを間違えたらどうなるか?」まで予測しておくとよい。

例えば「正しいルートは尾根上にあがるが、もし途中の分岐を間違えたら谷に下りてしまう」などということを予測しておく。そうすれば、万が一ルートを間違えたとしても、すぐ間違いに気づき、修正できるのだ。
ルートを維持する
目的地に向かって動き出したら、ルート維持に努めよう。先読みした特徴物や地形の状態、ルートのアップダウン、道の種類や方向が、実際のルートと一致するだろうか。
その中で、道の方向の確認は『整置』を行えば確実に判断できる。そして、チェックポイントでは現在地を確認しよう。
チェックポイントで現在地を把握する
現在地が把握できていないとナビゲーションはうまくいかない。自分がどこから来て、今どのあたりにいるのか。完全に現在地を見失ってしまうと、現在地の特定は非常に困難になる。
最低限「だいたいこの辺りにいる」この程度でも良いので、現在地はよく確認しておこう。現在地を把握する4つのステップが以下のとおりだ。
- 周囲の様子を観察する
- 地図を確認する
- 動きながら確定する
- 周りの変化を常に意識する
1. まず周囲の様子を観察すること
現在地把握で大切なことは、地図より先に周囲の様子を確認することである。
目標になるランドマークはないか、特徴的な地形はないか、斜面はどのように変化しているか、などを詳しく観察しよう。
2.地図を確認する
1.で確認した条件に該当する場所を、地図上で確認する。そして、なぜその場所だと断定できるのか、論理的な理由を言葉にしてみよう。
実践講習ではペアを組み、目的地までのルートを確認しながら進んだ。歩きながら、地形の特徴などをお互いに話あった。
これは地図や実際の地形、現在地やこれから進むルートを理解できていなければ、言葉で表すことができない。自身の理解度を知るバロメーターになると同時に、自分以外の人がどのようにナビゲーションを考えているのかを知ることができた。
最後の筆記試験では、現在地を現在地たらしめる理由を文章で書き出した。

ナヴィゲーションを学ぶにあたり、言葉に出して説明することの大切さを学べたことは、ナヴィゲーション講習・検定に参加した中での大きな収穫のひとつであった。
3.動きながら確定する
もし、現在地を一点に絞りきれなければ動いて確認してみよう。
たまに、実際の道や地形が地図とは異なっていることがある。そのため、現在地をピンポイントで確認することが難しい場面があるのだ。そのような時はルートを移動して確認する。
そのとき「もし現在地がここだとしたら、この先、道が北西に曲がるはずだ」「その先は下りで、特徴的なコルがあるはずだ」などと、再び先読みのステップに戻って考える。ナビゲーションは、先読み、ルート維持、現在地把握の繰り返しである。
4.ポイントは周りの変化を常に意識すること
ルート上の周囲の変化には敏感になろう。
具体的には、尾根上に出た、谷に下りた、斜面トラバースしている、ピークの巻き道を進んでいる、斜面が急になった、道が平坦になった、などである。
周囲の状況の変化には、ナビゲーションのヒントが多数含まれている。
まとめ
山と高原地図で地図を読みはじめ、地形図によるナビゲーションを学び始めて3年になる。その間にオリエンテーリングにも出会い、すっかり地図が好きになった。
これまでに地図読みの本を何冊も読み漁り、独学で勉強してきた。しかし、書籍での独学だけでは理解しにくい部分がある。
今回初めてナビゲーションを教わりーーそれも超一流の先生方にーープロがどのようにナビゲーションを考えているかを具体的に教わると理解度が一気に深まった。
等高線に表れるわずかな地形の変化が見えるようになり、複雑な地形を読めるようになった。また、実践練習だけではなく、机上学習で地図の基本を学ぶ大切も知った。
これから読図・ナヴィゲーションを学びたい人は、ぜひJOAが開催する講習・検定に参加することをお勧めする。地図の世界が広がることは間違いない。