「趣味はトレイルランニングで、山を走るんですよ……」
「えっ山を走る!? 鉄人ですね!!」
初対面の人にトレイルランニングのことを話すと、おおむねこのような反応が返ってくる。もしかしたら、”天狗(てんぐ)”や”仙人”の荒行を想像されるのかもしれない。
しかし実際には、登りはのんびり歩き気持ちの良いところは景色を楽しみながらゆっくりと走る。
山頂では休憩がてらのんびり過ごすし、思っているほどハードルは高くない。
ほんの少しの道具と知識があれば誰でもトレランは楽しめる。
自然の中をおもいっきり走ってみませんか?
ここでは、これからトレイルランニングを始めたい人へ、フルマラソンサブ3.5、トレラン歴6年の私がその魅力を伝えたい。
目次
トレイルランニングの魅力

早朝の澄んだ空気の中、朝日を浴びながら息を弾ませる。森閑としたトレイルには、自分の足音と小鳥のさえずりしか聞こえない。目的地を目指して斜面を駆け上がり、どんどん景色が流れていく。
山頂に到着する頃には「山の自然と健康な心身。これ以上、必要なものがあるだろうか?」とさえ思える。
もともと山好きでマラソンより先にトレイルランニングから始めた。記録を目指すマラソンも面白いが、やはりトレイルでの山遊びが大好きだ。
子供の頃、地元の里山を自転車や自分の足で走りまわっていた。トレイルランニングはその延長で、使う道具が良くなっただけである。
普段はマラソンを走るランナーにも、トレイルランニングをおすすめしたい。夏場は木陰が多く、標高が上がれば意外と涼しい。
不整地をバランスをとりながら走るのは、マラソン練習やロング練習にもいいだろう。もし、テクニカルなロード練習に嫌気がさしてしまったら、気分転換にトレイルに出かけてみてほしい。
トレイルランニングに必要なもの
街中を走るマラソンと違い、山中を行動するトレイルランニングには最低限の装備が必要である。ここに挙げるのは基本的なもので、フィールドや個々の走力に合わせて必要なものを選んでほしい。
ここには記載しないが、もちろん水分や携行食も必携である。
平地10kmを無理なく走れる走力
アスファルトの上と違い、やわらかい土の上を走るトレイルランニングは足に優しいのも特徴である。
その上、ロードランニングと比べてゆっくりなペースで走ることが多く、2〜3時間のトレイルランニングなら、平地10kmを無理なく走れる走力があれば大丈夫だろう。
筆者の場合、まずハイキングから始めたので、山を歩くことには多少慣れていた。いきなり山道を走ることに抵抗がある人は、まずはハイキングから始めてみよう。山に慣れたら、走れるところからゆっくりと走ってみるといい。
シューズ
アルトラのゼロドロップシューズの魅力とは?| TIMP TRAILで楽しむナチュラルランニング
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裸足系ランナーがトレランシューズにMERRELL(メレル)を選ぶ理由
MERRELL ALL OUT CRUSH 2 GORE-TEX (メレル・オールアウトクラッシュ 2 ゴアテックス)の詳細をレビューする記事です。低めのドロップで自然な着地ができ、ナチュラルランニング思考の人にもおすすめです。
トレイルランニングにはトレランシューズが欠かせない。コースによってはロードランニングシューズでも対応できなくはないが、できればトレランシューズを用意しておきたい。では、ランニングシューズとトレランシューズは何が違うのだろうか?
まずはソールの形状や厚さが挙げられる。トレランシューズは悪路でもグリップが効くように、登山靴にも使われる”ビブラムソール”が採用されたり、メーカー独自の悪路用ソールが使われたりと、岩場やぬかるみでも滑りにくいにが特徴だ。
地面からの突き上げに対しても保護——薄底のシューズで石ころを踏み抜くと悲鳴をあげそうになる——されている。
防水が施されているシューズもあり、悪天候にも強い。走り方やフィールドにあったシューズを選ぼう。
ザック

トレイルランニングは、携行食やウエアなど必要な装備を背負って走るので、専用のザックが必要だ。各社からさまざまなモデルが販売されており、容量は3L〜30Lと幅が広い。
どのモデルを選ぶかは、これから走るフィールドで必要な装備によって、最適な容量は異なる。
例えば、1000m未満の低山で半日ほどのトレイルランニングを楽しむなら、10L前後のザックが1年を通して使いやすい。冬場には着替えや防寒着を十分収納でき、夏場は2L以上の水分を携帯できる。
これ以上少ない容量は、エイドステーションが充実し、荷物を預けられるレースや、駅のコインロッカーを利用する場合におすすめだ。
コース上で水分など一切の補給ができない場合は、15L〜20Lのザックも選択肢に入る。いずれにせよ、自分が走るフィールドに合わせてザックを選ぼう。
地図
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登山地図の簡単な使い方を解説したページです。低山である兵庫県・六甲山でさえ毎年道迷い遭難が発生しており、ハイカーやランナーに地図読みのスキルは必須です。親しみやすい「山と高原地図」を例に、簡単にできる、コンパスを使ったルートの確認方法をまとめました。
トレイルランニングに限らず、山中のアクティビティーには地図が欠かせない。しかし、地図を携帯しないランナーが意外と多く、驚いている。「経験者に案内してもらうから」「道標が整備されているから」というのが理由だろうか。
確かに、百名山や有名な山域は道標が整備されており、道標に従えば登れてしまう。しかし、道標が倒れていたり、緊急事態にひとりで下山したりする場合には地図が必要になる。
そこで、満充電したスマホを携帯し、地図アプリを使うことをおすすめする。複雑な地形図が読めなくても(読めるに越したことはないが)いい。休憩ごとに、スマホのGPSで現在地と進むべきルートを確認しよう。これだけで、道迷いによる遭難も未然に防げるはずだ。
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レインウエア
レインウエアは登山の三種の神器の1つとされ、晴れの日でも必携である。
たとえ真夏でも、雨に打たれ強風が吹けば「低体温症」になりかねないし、雨が降らずともウィンドブレーカーとしても使え、防寒対策にも有効だ。
どうせ汗でぬれるから、レインウエアが必要ないという人もいるが、それは「止まらずに走り続けられる」ランナーに限られる。
いったん立ち止まると汗冷えに襲われ、体温を奪われてしまう。初心者ほどレインウエアにはこだわりたい。
ヘッドランプ

ヘッドランプも山の必携装備のひとつだ。
六甲山を縦走中に、急に足を故障したのは2018年の秋のこと。突然右足に痛みが走り、走るどころか歩くのもままならない。グループから外れ、ひとりで下山することになったが、本当に焦った。一歩踏み出すたびに痛む足をかばい、落ちていた木の枝をつえ代わりに歩いた。こんなことは初めてである。
予定より行動が遅れて、あたりはどんどん暗くなっていく。幸い、ヘッドランプを携帯していたから事無きを得たが、暗闇の山道は本当に怖いのだ。
これがもし2000mを超える山であったら、一歩間違えば遭難である。山に入るらなヘッドランプは必ず携帯したい。
救急用品
これだけは持ちたい!ファーストエイドキットに最低限加えておきたい装備のご紹介
数年前、六甲山中でうつむき加減に手を押さえながら歩いてくる男性に遭遇した。よく見ると手から出血しており、なんでもイノシシ …
街中と違い、けがをしてもすぐに病院に行けないので最低限の救急用品は用意しよう。
以前、イノシシにかまれて出血しなが歩いている人や、平坦な山道で足首を骨折し動けなくなった人に遭遇したことがあった。
レスキューヘリが上空を飛び、今まさに隊員が降下してくるところだったのだ。
最低限の持ち物としては以下が挙げられる。
- 傷用防水フィルム
- 包帯・滅菌ガーゼ
- テーピング用テープ(伸縮・非伸縮の2種類)
- 三角巾
- エマージェンシーブランケット
- ポイズンリムーバー
この中で使用頻度が高いのはテーピングテープだ。筋肉のサポートや靴ずれ防止、道具の応急修理にも使えるのでぜひ装備に加えておこう。
市販の救急キットをそのまま使う手もあるが、なるべく自分で中身をそろえた方がいい。自分で使えないものが入っていても役に立たないからである。
トレイルランニングの走り方のコツ

ロードランニングとトレイルランニングでは、走り方が少し異なるので、山を走るコツを紹介しよう。筆者の主観が多分に含まれているので、参考程度にしてほしい。
体にかかる負荷を一定に保つ
平地を走る時には、6:00/kmというように、ペースを一定に保ちやすい。しかし、登り下りの混じるトレイルではペースを一定に保つのは難しい。
そこで、体への負担を一定にして走ってみよう。呼吸が大きく乱れないペースを保つのだ。
登りで激しく息切れするようならペースを落とす。呼吸を一定に保つことは、余計な体力の消耗をおさえることにつながる。
歩幅はやや小さめに
木の根や岩など、さまざまな障害物に対応するため、ストライドはやや小幅にする。ロードと同じような大股で走ると、思わぬ落ち葉などに突っ込み、捻挫しかねない。
目安は、自分の重心の真下に着地することだ。無理に地面を蹴らず、体重移動にまかせて着地すれば、自然とその位置に着地できるようになる。
急な登りや下りは無理せず歩く
ランニングだからといって、すべてを走る必要はない。スキー場の斜面のような急登を駆け上がっていくランナーもいるが、それは鍛えられたエリートランナーだ。
急な下りも無理せず歩こう。だんだん慣れてくると、早く安全に着地できるポイントが見えてくる。
慣れる前に故障しては何にもならないし、楽しくない。走れるところを、走りたいだけ走るのが一番だ。
1時間おきに5分〜10分程度の休憩をとる
山を長時間移動すると、歩いても走ってもかなりのエネルギーを消耗する。例えば、体重65kgの筆者が山で3時間行動すると、約1500kcalを消費する計算だ。
成人男性の一日の消費カロリーの平均が約2000kcalであるから、相当な消費量であることがわかる。下手をすると、エネルギー切れで山中で動けなくなるし、いったんそうなると回復にも時間がかかる。
それを防ぐためには、1時間おきに小休憩をとり、お菓子やエネジーバーをとると良い。少しずつ食べながら、飲みながら走るのが、長時間動き続けるコツである。
トレイルランニングの注意点
山を走るのは爽快で本当に楽しいことなのだが、いくつか注意点もある。前項で触れた項目もあるが、確認しておこう。
- 自分の走力にあった装備を用意する
- 道迷いに注意する
- けがや補給の備え
- 登山者への配慮
50kmのトレイルを5〜6時間程度で走るエリートランナーであれば、装備はドリンクボトルと補給食だけで十分かもしれない。何が起きても走りきれる走力・体力があるからだ。ただし初心者は別である。
少々荷物が増えても、安全を優先すべきだろう。地図や携行食など、基本の装備は必ず携帯しておきたい。山は危険もあることを頭の片隅においておき、後は思いっきり楽しめばいい。
トレイルランニングのマナーはこちらを参考に。
初心者必見! トレイルランニング安全・マナーガイドが素晴らしいので紹介する|TRAIL RUNNING SAFETY & MANNERS GUIDE
日本トレイルランナー協会の「TRAIL RUNNING SAFETY & MANNERS GUIDE」をご紹介します。トレイルランニングや山のマナーを分かりやすく解説され、トレイルランナーはもちろんハイカーにもおすすめのガイドです。ぜひ活用してください。
登山者への配慮
他の登山客への配慮も忘れてはならない。山は基本的に登りが優先である。自分が下っている時は快く道を譲ろう。追い越しやすれ違いでは「お先に失礼します」「右から追い越します」など一声かけるのがマナーだ。
歩くことに夢中になっていると、案外他のことに気がつかない。突然、後ろから猛スピードで追い抜かれたら双方に危険である。
お互いが気持ちよくマネーを守って、気持ちよく山を楽しみたい。
トレイルランニングの始め方まとめ
トレイルランニングは、ほんの少しの装備と知識で誰でも楽しめるスポーツである。この記事を読んで、1人でもトレイルランニングを始めようと思ってくれる人がいたら、こんなにうれしいことはない。
装備と体を整えて、週末は山に出かけてみよう。ランニングの新しい世界が広がるはずである。