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靴の手入れ|靴磨きの基本と10年履ける靴の選び方

2019年10月4日

 朝、目が覚めると、先輩がテーブルの上を整理し、おもむろに靴とその手入れ道具を並べはじめた。寝起きで靴磨きを始める光景を見たのは、後にも先にもその時かぎりだ。

 その先輩は、顔を洗うよりも朝食をとるよりも、昨日履いた靴の手入れをしなければ気が済まないらしい。

 彼の家は一般的な単身者用のマンションであったが、靴の棚だけは、さながら高級ブランド店の陳列棚のように彩られていた。

「靴はね――。こうやって磨くんだ」

 私のリーガルシューズ勤務時代、こうやって先輩から靴のノウハウを教わった。

目次

足元を見られないよう、靴はしっかり磨くべし

 スーツを颯爽(さっそう)と着こなし、ヘアスタイルも決まっている。それなのに、靴がくたびれていては全てが台無しである。今にも底がはがれそうな靴を履いている営業マンに「この商品はこんなに素晴らしいのです!」とアピールされても、あなたは信用するだろうか。

 リーガルシューズに靴修理店、婦人靴メーカーと、私は靴業界に10年以上携わった。その中で得た教訓、とまでは言えなが、学んだことがある。それは『靴はその人を表す』ということだ。

 リーガルシューズと靴修理店では、多くの人の靴を観察してきた。そして、靴の状態と持ち主の人柄が、面白いように一致することに気がついた。

 例えば、靴修理の受け付けの場面のこと。希にディスカウントショップで1,000円で買えるような靴を持ち込む人がいた。ずいぶん履き込んだ様子で、修理をしても、そう長くは持ちそうにない。だが、そういう靴を持ってくる人に限ってこんなことを言う。

「600円払うから新品にもどしてちょうだい」

 他方、よく手入れされた靴――靴の値段の問題ではない――を持ってくる人とは、トラブルになった記憶はない。私は依頼内容をしっかと伺い、向こうも私の説明を聞き、理解してくれる。お互いに話合いながら方針を決められた。このような人を、当時の私の上司は『文化的な人』と呼んでいた。

 一流のホテルマンは、靴を相手の判断材料にするという。他人からは、思いのほか身なりをチェックされている、ということ。手入れのされていない傷んだ靴を履いていると、文字どおり”足元を見られる”のだ。

靴磨きの基本

革は、動物の皮に防腐処理を施し、脱毛し、柔らかい革、硬い革など用途に応じてなめしたもののことだ。しなやかさと堅牢さを併せ持つ、靴に最適な素材といえる。

 ただし、手入れを施さないとその特性は失われてしまう。定期的に靴の汚れを落とし、革に水と油の栄養分を与えることが大切だ。

用意するもの

靴磨き
  • 靴ブラシ
  • 毛羽立たない布
  • 靴クリーナー
  • 靴クリーム
  • シュートリー

 まずはこれらの道具を用意しよう。靴売り場や大型ホームセンター、アマゾンなどで手に入る。このページの最後にアマゾンのリンクを貼ってあるので、足りない物がある人は確認してほしい。

1.ほこりを落とす

 履き終えた靴にシュートリーをセットし、靴ブラシでほこりをしっかり落とそう。

 シュートリーは靴の型崩れを防ぐハンガーのような役割をはたす。木製のシュートリーであれば、靴の大敵である湿気も吸い取ってくれる。必需品ではないが、作業性も向上するので、できれば用意しておきたい。

2.クリーナーで汚れを落とす

靴磨き
いらなくなったTシャツをカットし、指に巻きつける。クリーナーを少量とり、全体の汚れを拭き取る。

 ブラシでほこりを落としたら、クリーナーを使用して革の表面の汚れを落とす。履いている時についた汚れや、ひび割れの原因にもなる古いクリームもしっかり拭き取ろう。

3.靴クリームを塗る

靴クリーム
栄養補給に使うデリケートクリームと、それに加えて補色や艶出しもできる乳化性クリーム。

 乳化性の靴クリームを塗って、栄養補給を行う。クリームは用途に応じた数種類のものがあるが、おすすめは『デリケートクリーム』『瓶入りの乳化性クリーム』である。

 デリケートクリームは水と油からなるクリームで、伸びが良く、は虫類革などの特殊な革を除き、幅広い用途に使用できる。シミにもなりにくい。

 乳化性クリームも同じく栄養補給のクリームであるが、補色のための染料と、つや出しのための蝋分が含まれている。

 靴クリームには、容器の先にスポンジが付いた簡易液体タイプのものもあるが、これはおすすめできない。手早く光沢がでる反面、蝋分が硬く、ひび割れの原因になりやすいからだ。

 まず、デリケートクリームを布に取り、全体に塗布する。続いて乳化性クリームを塗布し、全体に伸ばしながら補色とつや出しをする。多すぎるクリームはかえって劣化の原因になるので、塗布する量はごく少量でよい。

4.靴クリームをなじませる

靴磨き
塗布したクリームを、靴ブラシを使い全体になじませていく。

 クリームを全体に塗布したら、靴ブラシや布で全体になじませる。これが靴磨きの”磨き”作業だ。履きシワや靴底のすきまにも、しっかりクリームをなじませよう。

 磨き始めてしばらくすれば、徐々に自然な光沢がでてくるのが分かる。この状態になれば十分だろう。最後に、余分なクリームをきれいな布で拭き取とれば完了である。 

5.風通しのよい場所で保管する

 靴を劣化させる大きな要因のひとつが湿気である。湿気がある場所に保管すると、たちまちカビの餌食になってしまう。革は、カビの大好きな栄養源だからだ。

 靴の保管には風通しのよい場所が最適である。なるべくシュートリーをセットして保管したい。このとき、購入した時の靴箱にしまうのはNGである。

 “大切なとき用”と、丁寧に箱に保管している人も多いだろうが、湿気で靴を劣化させてしまう。「久しぶりに靴を出したら、靴の内側や底がボロボロになっていた」というのは、ほとんどの場合、保管方法に問題があるのだ。

10年履ける靴の選び方

靴磨き

 写真の靴は私が大好きな一足だ。この靴はどこにも売っていない。靴修理店での師匠が作ってくれた、世界に一足の手縫い靴である。

 確か私が28歳のころに作ってくれたから、かれこれ7年は履いている。その間に、踵(かかと)やつま先など、すり減りやすい箇所は何度か補修したが、まだまだ現役で履ける。

 今でも師匠とは交流があり、この靴を履いている私の姿を見るだびに「何や、まだ履いとったんか」と、照れ笑いを浮かべながら喜んでくれる。

 仮に、靴本体が70,000円だったとしよう。手入れをしながら10年履けば、年7,000円(補修費は含まず)の出費と計算できる。これを高いと考えるだろうか?

 足にフィットする本格靴が、年間7,000円で手に入るのだ。10,000円の革靴を年に数回履きつぶすことを考えると、どちらが経済的かを考えてみよう。

 では、10年履ける靴は高級靴に限られるのかというと、そんなことはない。下記のポイントに気をつけて選べば、2万円台でも長く愛用できる靴が手に入る。

本革の靴を選ぶ

 まず、素材が本革であることが大切だ。本革であるからこそ、栄養補給や補修をしながら長く使い続けられる。合成皮革は素材の特性上、経年劣化をさけられない。

 本革にもさまざまな種類があるが、靴の素材として一般的な、牛革のスムースレザーがおすすめである。スムースレザーとは、革の表面を使用し、特別な加工が施されていない革のことだ。革の風合いを楽しめるうえ、手入れも簡単である。

 もし、素材が分からなかったら店員に聞いてみよう。最近の合成皮革は非常によくできており、見ただけでは判断できないことがある。決して恥ずかしがることはない。

定番デザインがおすすめ

革靴
定番デザインのひとつ「プレーントゥ」。どのような場面でも履けるデザインだ。

 革靴には定番デザインがある。例えば『ストレートチップ』や『ウイングチップ』がその代表だ。靴の製法が確立されたころからある普遍的なデザインで、10年や20年では廃れない。

 長く履くことが目的なら、流行のデザインよりも定番のデザインを選び、黒や濃茶などの使いやすい色を選ぶといいだろう。

修理できる製法であるか

 靴を長く愛用できるかどうかは、靴の製法にもかかってくる。

 靴の製法には数々の種類があるが、製法とは靴底の取り付け方のことである。大きく分けると、底を接着剤で固定する方法と、大型ミシンで縫い付ける方法の二通りがある。

 靴を接着剤で固定する『セメント製法』は、現在多くの靴に取り入れられている。接着剤の性能が向上し、底を縫い付ける必要がなくなったためだ。製造コストを抑えられ、軽くいろいろなデザインに対応できるが、いざ修理となると底の張り替えが困難だ。

 一方、『グッドイヤーウエルト製法』や『マッケイ製法』は、靴底を接着せずミシンで縫い付けているため、修理や交換も容易である。10年履ける靴を選びたいなら、グッドイヤーウエルト製法や、マッケイ製法の靴を選ぶべきである。これも靴を見ただけでは分かりにくいので、店員に確認してみよう。

足に合うか

 いくら靴の作りが良くても、足に合わなければ意味がない。道具としての靴の機能を発揮できない。靴を購入する前は、必ず試し履きをするべきだ。

 リーガルシューズ時代「自分の足は26cmだし、いつも26cmだから試し履きは必要ない」という人も多く訪れた。そして、試し履きが必要なことを説明しても、若造の私の説明を聞こうとしない。

 そんな時は、足の測定器を持ち出して「足のサイズを測定してみませんか? もちろんサービスですよ」と持ちかけた。足を測定し、実際のサイズと思っていた自分の足のサイズとが異なることが分かると、説明に耳を傾けてくれたものだ。そして、同じ26cmだとしても、メーカーによってサイズがまったく違うことも、理解してくれた。

 靴を選ぶときには、必ず何足か試し履きをして、その中で納得できるフィット感のものを選ぶべきだ。

まとめ

 靴の仕事に長く携わったからか、知らず知らずのうちに、街ゆく人の靴に目がいってしまう。よく磨かれた靴を履いている人からは、清潔感や信頼感を感じる。しかし、ボロボロの靴を履いている人は残念に見えてしまう。

 それには履いてる靴の値段は関係ない。何も高級靴である必要はなく、きちんと手入れした靴を履けば印象も違ってくるものだ。それに、何足も靴を履きつぶすよりは、手入れしながら長く履いたほうが、よほど経済的でもある。

 ここでご紹介したように、靴の手入れは自宅で簡単にできる。面倒がらずに、道具をそろえて靴を磨いてみよう。

 そうすれば、きちんとメンテナンスされた靴を履く高揚感や、靴磨きの楽しさを味わえ、他人があなたに抱く印象も違ったものになることだろう。

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  • この記事を書いた人

Takashi

元靴メーカー勤務の職人、現在はWEBライターとしてアウトドア系メディアで執筆しています。靴業界での10年以上の経験、趣味のアウトドア経験を活かして書きます。大阪府山岳連盟「青雲会」所属・読図ナヴィゲーションスキル検定「シルバーレベル」・2018年「狩猟免許」取得・ランサーズ「認定ランサー」・フルマラソンベスト3時間29分。

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