京都北山 山旅

廃村八丁【ピークハント】テン泊登山レポート

2020年11月19日

 京都北山の奥地にかつて存在していた集落がある。

 度重なる近隣との境界線争いと豪雪により廃村となったその集落は、現在はハイキングコースとして楽しまれており、こけむした遺構や静かな山歩きを味えるとあって人気だ。

 ここでは、廃村八丁のバリエーションルート、テント泊登山レポートをお届けしたい。

目次

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廃村八丁の概要

  • 総距離:約15km
  • コースタイム:1日目・4時間 2日目・4時間30分
  • 難易度:経験者向け
  • コース1日目:菅原~ダンノ峠~八丁山(P892)~ソトバ峠~廃村八丁
  • コース2日目:廃村八丁~トラゴシ峠~P827~品谷山~ダンノ峠~菅原

 廃村八丁は、京都市右京区京北の品谷山(881m)の南部に、かつて存在した集落だ。昭和初期の豪雪により全戸離村し、現在は廃村である。
 周辺はハイキングコースが整備され、廃村八丁はハイキングの目的地として人気がある。

 廃村八丁はダンノ峠から峠谷、刑部谷を利用すれば日帰りも可能だ。だが今回はあえて遠回りをし、バリエーションルートによるピークハント山行を楽しんできた。

 バリエーションルートであるから当然ではあるが、道もなければ道標も設置されていない。GPSや地形図によるルートファインディング能力が必要なコースである。

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廃村八丁テント泊山行レポート

 色濃い緑に囲まれた森で、星空を見上げながらの朝食はまた格別だった。米を塩とオリーブオイルで煮ただけの簡単なおかゆだが、冷えた体に温かい食事を運ぶと元気がみなぎるのが分かる。

 11月の日の出は遅く、時刻は午前5時30分――闇に包まれた静かな森の中で、ヘッドライトの明かりが僕らのすぐそばにいた、小ジカの目を赤く浮かび上がらせていた。

 食事を終え、撤収作業にかかり始めると次第に空が明るくなり、星は遠い夜空へと消えていった。
 空を見上げながら僕は「テントで過ごす山の夜は、素晴らしい体験だ」と改めて感じていた。

1日目(菅原~ダンノ峠~八丁山(P892)~ソトバ峠~廃村八丁)

菅原バス停から登山口へと向かう。

 菅原バス停に到着する頃にはすっかり体が冷えてしまった。出町柳駅前からバスに揺られること1時間50分。新型コロナウイルス対策の換気のため、車内には、開放された窓から冷たい風が容赦なく吹き込んでいたのだ。凍えた体を温めるべく、廃村八丁への登山口へといそいそと歩いていった。

 今回の山行は、僕が所属する山岳会「大阪青雲会」の例会である。リーダーを含むベテラン4名と、僕とその同期の計6名のパーティーだ。その6名で廃村八丁周辺のピークを巡りながら1泊2日を山中で過ごす。地図にはないバリエーションルートを歩くため、難易度は中級に設定されていた。

 登山口から西へ続く谷筋を歩くと、やがて正面に尾根が現れる。その尾根の先が第一チェックポイント「ダンノ峠」だ。
 廃村八丁へは通常、ダンノ峠から南西に続く八丁谷を下っていく。だが今回は、地形図上にあるP(ピーク)850、P892(八丁山)、P847を経由し、ソトバ峠を経て八丁へと向かう。ピークハントを楽しむバリエーションルートの起点は、ここダンノ峠だ。南へ進路をとり、道なき道を進んでいく。

 11月の京都北山にしてはこの日は暖かく、悪天の心配がない最高の秋晴れに恵まれた。紅葉の見頃はわずかに過ぎ、木々は色とりどりの葉を少し残しながら落葉が始まっていた。

 残された紅葉の透過光が青空に映え、落ち葉を踏み締める音が心地よく響く。時折吹き付ける冷たい風が気持ちいい。秋から冬にかけての、低山のベストシーズンが始まったのだ。

 関西近郊の有名スポットはこの時期多くの登山客が訪れる。寒くもなく暑くもない気候は登山に最適で、観光地のように混み合うことも珍しくない。

 しかし、土日にもかかわらず、この日出会った登山者は僕らを除くと2名のみだった。秋晴れと静かな山歩きを独占していると思うと愉快でたまらなかった。

 人はいない――その代わりに、野生動物の痕跡は多く見られた。シカの足跡や糞、それに大きな熊の糞も。新しい糞は黒く光沢があるが、見つけたものは灰色に褪色していたから……何日か経過した古いものだ。それでも、糞のそばの樹木が皮を剥ぎ取られ、生なましい爪跡が残されているのを発見したとき、手のひらにジワリと汗をかいた。

 ここは人の領域ではない。野生動物たちの世界なのだ。

 熊の痕跡を見つけた僕らの会話は自然とボリュームが上がった。最後尾を歩くリーダーが手をたたいて人の存在を知らせている。熊に会いたくないのはみな同じである。

 ヤブをかき分け倒木を越え、たどり着いた八丁山(P892)からの眺望はなかなかのものだった。

通称ピークハンターさんのプレート。ニスで丁寧に仕上げられている。

 八丁山のはるか東には稜線が幾重にも連なりながら比良山脈が広がっている。武奈ヶ岳、蓬莱山、びわ湖バレー、蛇谷ヶ峰。木が生茂る夏場は枝葉に遮られて見通しが効かないだろうな。これは秋冬ならではの眺めである。

 八丁山から先、ソトバ峠までのルートファインディングが難しかった。P847を通過し、その先は地形図上で徒歩道ではあるが、よほど登山客が少ないと見えた。道は荒れ、踏み跡は落ち葉で隠れ、尾根を間違いそうになったり、急斜面をずっこけながら下ったりとバリエーションルートの洗礼を思う存分に楽しんだ。

ソトバ峠にある巨木。

 ソトバ峠からソトバ山をピストンし、満足した僕らは峠からババ谷を下り、本日のテント場、廃村八丁へと向かった。

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廃村八丁

 八丁は明治初期には5戸が住み、1933年~1934年(昭和8年~9年)にかけての豪雪――積雪3m!――を機に全戸離村した廃村である。豊富な森林資源の産地であるがゆえ、弓削村と知井村との間で、実に600年ものあいだ境界紛争が続いていたのだ。
 明治に入り両村の和解が成立すると、文教場では多いときに8人の児童が在校していたという。

現在の廃村八丁のシンボル、三角小屋。

 現在の廃村八丁には遺構が残され、こけをまとった姿が神秘的な雰囲気を醸し出している。村には小川も流れ、上流に人工物がないことから煮沸すれば飲み水として使えるだろう。

有名な土蔵はなくなってあり、基礎と盛り土が残るのみ。

 村の広場の入り口に丘へと続く階段があり、階段脇に、朽ちた木が2本立っていた。鳥居の跡である。その先のほこらは崩れてしまっていたが、「一晩使わせていただきます」と手を合わせ、挨拶をすませた。

 村の中央には八丁のシンボルともいえる三角屋根のトタン小屋がある。管理人が一定期間に駐在する詰所だ。ここが今日のテント場である。

山岳会の例会であるため、ソロテント指定だった。登山用品レンタル「そらのした」でエアライズを借りた。

 僕はレンタルした「アライテント・エアライズ」を設営し、食事の準備にとりかかった。今日のメニューは豚肉と白菜の鍋。塩とオリーブオイルで味付けし、トッピングにチーズを盛り付けた洋風鍋だ。

 皆で食事を囲ったテーブルにはスコッチが2本並んでいたが、気がついたときには空になっていた。このことから分かるように、僕らは相当に楽しい夜を過ごしたのだった。

2日目(廃村八丁~トラゴシ峠~P827~品谷山~ダンノ峠~菅原)

朝日が差し込む、清々しい森を歩く。

 食事を済ませ、テントを撤収し、浄水器で1日分の水を用意し、さぁ2日目の始まりだ!
 夜中に一度だけ目が覚めたがよく眠れた。コンディションは上々である。

 今日のコースは八丁からトラゴシ峠へ向い、そこからP776、P827のバリエーションルートを経て品谷山を目指す。そこから再びダンノ峠へ戻り、菅原バス停から帰路につく予定だ。

2日目も秋晴れに恵まれた。

 出発して早々、トラゴシ峠までの道のりが難関だった。八丁の三つまた分岐から尾根をトラゴシ峠へと登るのだが、その斜面が壁のように急で、テント泊装備を背負ったままではとても登れそうになかった。ここでベテランリーダーの登場である。

 地形図とにらめっこしながらリーダーと相談した結果、尾根の脇から谷筋を上がり、傾斜が緩くなるポイントから尾根にとりつくことにした。

 リーダーのすぐ後ろについて歩いたが、リーダーの歩き方には無駄がない。後ろをついて歩くとその人の力量が分かるというものだ。僕もあと20年も山を続ければ、そんな歩き方が身に付くだろうか……。

装備をデポしてP827に寄り道する一行。

 午前7時に出発し、品谷山に到着したのが10時ごろ。その間、倒木に遮られたルートに難儀し、ヤブに突入し、振り返っては景色を眺めるのに必死で、あっという間に時間が過ぎてしまった。
 ただ、品谷山への登りが等高線より急坂に感じられたのは、やはり2日間の山歩きによる疲労がたまっていたのだろうか――。
 見上げる空は快晴そのもので、紅葉と空のコントラストが今でも目に焼き付いている。

見事な紅葉だ。

 品谷山を下ると、あとはダンノ峠を経由し、菅原バス停へと向かうのみだ。

バスの時間調整のため、峠谷を散策した。

 品谷山の稜線を歩きながら、もうすぐ下山できる安堵感と、後ろ髪を引かれる思いとが錯綜し、なんとも複雑な心境だった。毎回まいかい、山を離れるときはこのような思いに駆られる。

 山を歩く――このシンプルな遊びに魅了されてどのくらいの月日が流れただろう。山を趣味にしていると「山に登って何をするのか」と尋ねられることがある。

 そう聞かれても僕は答えに窮してしまう。山で何か特別なことをするわけではないからだ。

 風の歌を聞き、ぼんやりと景色を眺めて、動物のたちの痕跡を観察し、ときには恐怖で震え上がり、歩きながら夏は汗を吹き出して、冬は寒さで凍えるのである。

バス停付近の堤防。のどかな里山の風景だ。

 菅原バス停に到着したのは13時を少しまわったころだ。次のバスまで待ち時間がたっぷりとある。僕らは付近のお寺を散策し、残りの時間は川の堤防に腰かけてのんびりと過ごした。

 どこまでも青い空の上を、トビが1羽、舞っていた。

廃村八丁へのアクセス

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Takashi

元靴メーカー勤務の職人、現在はWEBライターとしてアウトドア系メディアで執筆しています。靴業界での10年以上の経験、趣味のアウトドア経験を活かして書きます。大阪府山岳連盟「青雲会」所属・読図ナヴィゲーションスキル検定「シルバーレベル」・2018年「狩猟免許」取得・ランサーズ「認定ランサー」・フルマラソンベスト3時間29分。

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