ライフ

ジワジワと蔓延する国語力の危機

2020年3月29日

 晴耕雨読——。

 ご存知のとおり、晴れの日は外で耕し、雨の日は家にいて書を読むこと。田園での自適な生活を表す言葉だ。

 私に当てはめると、晴れの日は山に出かけ、雨の日は本を読み記事を書く、ということになろう。2020年3月29日、降り注ぐ雨を避けて、こうしてブログを書きながら過ごしている。

 ただし、実際に降っているのは雨ではない。目には見えないウイルスだ。

 本来なら、桜が見頃を迎えるこの週末、名所は大勢の人々でにぎわい笑顔の花を咲かせるはずだった。しかし、新型コロナウイルスの拡散を受けて、予定をキャンセルせざるを得なくなったのは私だけではないだろう。だからこうして、自宅で悶々と過ごしている。

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 外出自粛要請がでる前の日、古本屋で良書を見つけたので紹介したい。朝日新聞社『新アサヒカメラ講座 2』である。

 この本は写真雑誌『アサヒカメラ』の創刊70周年を記念して、1994年に刊行された。主に風景写真を取り扱い、山や渓谷、旅の写真、都市、建築、乗り物など、それぞれのテーマについて、第一線で活躍するフォトグラファーが解説する。

 テクニックや作例はもちろん、写真やテーマに対する考え方も巧みな文章で詳説されており、読み物としても大変おもしろい。

 1994年刊行であるから、本書はフィルムでの撮影を前提としており、内容に古さを感じなくもない。だが道具が進化し、フィルムからデジタルへと遷移しても、写真の基本や本質は今も昔も変わらないのであろう。

 風景を切り取るテクニックや、テーマに対峙したときの心構えなど、著者が伝えたい思いが豊かな言葉で表現されている。現在でも十分に通用する内容であり、写真の教本として一生手元に置いておきたい、そう思える本だ。

 私は仕事で写真を納品することがある。といってもカメラマンではないから、求められるのはPCやスマートフォンでの閲覧に耐えられる、メモ程度の写真である。20代の頃に写真にはまった時期があり、今はその財産で撮影している。とはいえ、お客様に納品する以上、すこしでも上手な写真を納品したい。そうして手にしたのが『新アサヒカメラ講座 2』であった。

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 最近の書籍はイラストが多用されている。写真教本は特にこの傾向が強いように思う。近年話題になる、若年層の読解力低下が影響しているのであろうか、私が漁った他の写真教本は、本というよりイラスト集のようだった。分かりやすいのはいいのだが、どうにも食指が動かない。

 2019年の国際学習到達度調査で、日本の読解力が8位から15位へ下落した。当時の新聞記事によると、ある大学教授が学生に原稿用紙2枚ほどの文章を書かせると、すべての言葉を読点(、)でつなぎ、800字の1文として提出する学生がいるという。「おじいさん、おばあさん」は出てきても「祖父、祖母」は出てこず、接続詞は「そして」しか使えないというのだ。

 私自身、仕事で「〇〇の雄」という表現を用いたら、編集から「難しい表現は使わないでください」と修正を迫られ、面食らったことがある。SNSがあり、YouTubeでの動画閲覧が当たり前の世代には、よく練られた長文に触れる機会がめっきり減少しているという。

 人は物を考えるとき言葉を頼りにし、言葉にできないことは考えることさえもできない。自分の気持ちをより的確に表現する言葉を選ぶ。そうしなければ伝えたいことが相手に伝わらず、困る場面も増えるだろう。

 文章に触れる機会が減り、読解力の低下が若年層にじわじわと広がっていく。自覚症状もなく広がるその様は、目には見えない新型コロナウイルスのようではないか。

 言葉は時代と共に移り変わるとはいえ、文章を書くことが『特殊技能』などといわれてしまうと、ライターの端くれとして、少し寂しく思うのだ。

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  • この記事を書いた人

Takashi

元靴メーカー勤務の職人、現在はWEBライターとしてアウトドア系メディアで執筆しています。靴業界での10年以上の経験、趣味のアウトドア経験を活かして書きます。大阪府山岳連盟「青雲会」所属・読図ナヴィゲーションスキル検定「シルバーレベル」・2018年「狩猟免許」取得・ランサーズ「認定ランサー」・フルマラソンベスト3時間29分。

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